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 7回目にしてまだ空中へ飛び立たないのか?そんな声もちらちら聞こえて来ました。しかも、前回はすこし寄り道をしてしまいました。そこで、今回は本来のテーマに戻り、いよいよ空中へと飛び立ちましょう!
 ここまではパラグライダーという翼を正確に機能させるためのライズアップ。また、そのための技術的な考察や感覚について触れてきました。それは、私たちが身体的にも感覚的にも飛行する能力を先天的には有していないからです。以前も書きましたが、私たちは猫のように高いところから落ちても怪我をしないような運動能力はありません。ハヤブサのように時速100キロ近い速度で移動している傍ら捕食対象となる小動物に向かって方向転換できるような動体視力も3次元のバランス感覚も持ち合わせてはいません。飛行する能力は後天的な訓練と経験によって獲得するしかありません。なおかつその能力は、人が飛ぶことを前提に、人が作成した装備を用いて、その使用方法を習得することで獲得するものです。パラグライダーのフライトに経験が必要な最大の理由だと思います。

パラグライダーの離陸動作における走るという動作


 完全に機能しているパラグライダーとは、どのような感覚を人にもたらすのでしょうか?いいかえると、どのような感覚を捉えた場合に、離陸へ向けた最初の動きをはじめていくのでしょうか。パラグライダーの空力的な要件と照らし合わせながら考えましょう。
 パラグライダーはそのプロファイル(形状の特徴)から揚力(人を浮かそうとする力)が斜め前方へ発生します。この揚力と人間にかかる重力が合力を形成して前進力をつくります。このとき、パラグライダーは人をつり上げようとします。感覚に鋭敏な人は足の裏にかかる体重がパラグライダーの揚力によって上方向に均衡し、かかとが持ち上がりそうになる力を感知できます。この感覚は、テイクオフの傾斜で感じると、より明確に体が前方へと運ばれるような感覚として捉えることが出来るようになります。つまり、パラグライダーの翼としての機能、言い換えればライズアップが完全な状態で頭上安定を迎えている場合は、パラグライダーとの良好なバランスによって、あくまでも自然な走る動作でテイクオフをすることができるようになります。このような感覚があるときは、頭上のパラグライダーの操作に集中できます。パラグライダーの操作は人間の走る速度と調和させるために、ブレークコードの操作によって速度を調整します。このような操作が行えているときは、パラグライダーのピッチ(縦方向への動き)が安定し、離陸直後もほとんど揺れることなく、安定した滑空へと移行します。このようなパラグライダーと人の関係はパラグライダーが主体で、人はそれを制御して追従するという関係で成り立ちます。
 走ることをしないのではなく、あくまでもパラグライダーの前方への動きを感覚的に捉えて走る(むしろついて行く)と言うことです。前々回のパラグライダーライズアップの練習方法で触れたことを思い出して下さい。意図的にパラグライダーの速度を変化させて走るという練習方法を紹介しました。ブレークコードによって速度を調整し、前方へ移動するグライダーの速度と調和して走れるようになりましょう。パラグライダーのテイクオフが簡単に思えてくること間違いありません。

パラグライダーのテイクオフ動作のうち荷重と加速の意味


 走るという動作に付随して、パラグライダーのテイクオフ動作を説明するときに良く使用される言葉が、荷重そして加速です。荷重という言葉は、先日実施したパラグライダーのライズアップセミナーでも参加者の方から頻繁に聞かれました。同様に加速という言葉もよく聞かれました。使われ方はこんな感じです。「パラグライダーに荷重をかけて、加速して、十分な揚力を得てテイクオフする」
 言葉の使い方も、正解です。空力的な理論の展開にも適っています。問題なのは、これらの言葉をどのような状況でも鵜呑みにすることだと思うのですが、みなさんはどのように思いますか?
 荷重とはパラグライダーの揚力方向に対して、本来の重力がかかるべき方向へ体重を移し、グライダーをより前方へ移動させる、もしくは移動しやすくするために行う動作のことを指しています。つまりは、揚力と重力によって合成される前進力を得る手段だといえます。具体的な運動状態は、足首と、膝関節と、股関節が、ほどよく屈折して、バランスのとれた前傾姿勢を作ります。なおかつ体重を自分の筋力で支えない、その状態になれば自然と自分の体重がパラグライダーにかかることになります。必要以上に前傾するのは、荷重を意識するとはいえ正しい方法ではありません。いたずらに視界を狭めてしまいます。パラグライダーが正しい位置にあり、荷重を行う身体的運動が正確であればあるほど、より効率的に前進する力を得られます。つまりパラグライダーは自然と加速を始めます。このような動作が出来ている人はむしろ、走ると言うよりも滑らかに動いている、そう表現した方が良いかもしれません。
 加速という言葉はより注意が必要です。パラグライダーのテイクオフに必要なのは十分な揚力を得ることです。人間だけが闇雲に加速することではありません。パラグライダーという空気の流れによって揚力を生み出すその形状に、的確に空気の流速を与えることにあります。一時的に人が加速しても、そこにパラグライダーが着いてこなければパラグライダーのピッチが後方へと移動してしまいます。このような状態で離陸という結果を迎えると、パラグライダーは適切は飛行方向へと回復する動き(ピッチング)と人間の重力が適切な方向に一気にかかることによって速度を獲得する動き、二つの動きが重なることになります。結果としてパラグライダーは大きく前方へ移動し(これもピッチング)、テイクオフ直後の風の安定度によっては、パラグライダーがつぶれたりします。これと類似した動きはパラグライダーが頭上安定しないまま(後方へ位置したまま)走り出す人には良く見られる光景です。経験が豊かなパイロットはその動きをブレークコードの動きによって相殺できますが、風が不安定だと許容範囲を超えて、翼のつぶれを誘発していまいます。

パラグライダーのテイクオフ直前、わずか数秒の感覚の重要性


 先に触れたとおり、加速する意識が強すぎたり、何よりテイクオフの時にとにかく慌ててしまう人は瞬間的に走り、飛び出してしまうために、テイクオフ直後のパラグライダーが不安定です。パラグライダーが良く揺れます。ピッチ方向(前後)だけではなくロール方向(横)にも良く揺れます。これは、離陸直後のパラグライダーが正常な飛行状態に戻ろうとする揺れであることが多く、ブレークコードによる操作に大きな制約が付けられてしまいます。
 この揺れる動きの解説は、空力的にかなり難しい説明を付け加えなければなりません。それは飛行角度、パラグライダーの角度、迎角、という言葉を使用して説明します。ここでは深入りしませんが、避けて通れないテーマですのでいずれ取り上げることにします。ここでは、気流によって揺れることとは違うという理解をしてください。
 完全な空気の流速を得ることができずに、また完全な飛行角度を得られないまま離陸してしまったパラグライダーは空力的なバランスが完全に釣り合って飛行しているわけではありません。つまり、ブレークコードによる操作量、操作感、タイミングとも、通常に飛行しているパラグライダーに比べると狭い範囲に限定されるということになります。この狭くなる範囲は、性能の高いパラグライダーほど狭くなります。この状況を現実的な状況説明で補完してみましょう。ある人がパラグライダーでテイクオフしようとしています。この人はパラグライダーがやや後ろにあるのに強引に走ってしまいました。結果パラグライダーはなんとかテイクオフすることは出来ましたが、直後におおきく揺れています。前方向へのピッチングを止めようとしたものの、片側の翼がつぶれてしまいました。こういう状況ですね。このあとのブレーク操作に間違いがあれば状況はさらに悪化します。地面に対する高度の余裕があれば、パラグライダーは回復して飛行できる状況になりますが、高度がなければツリーラン覚悟する状況です。
 パラグライダーの頭上安定から地面に足がある数秒の間。ここを完全に制御下においてこそ、本当のパラグライダーのエキスパート!ほんの数秒の動きにパラグライダーを感知するもっとも重要な局面を迎えます。自分から飛び出してしまうのではなく、パラグライダーに連れて行ってもらえるような走り方。ほんの数秒足らずでもパラグライダーのピッチを十分にコントロールし、正確な方向で離陸すること。揚力が増えていく(自分を浮かそうとする感覚は)ことは、この段階でますます前進力に合成されて自分を前方へと移動させようとします。この力の変化を正確にとらえられれば、自然な走りでそのまま空中へと飛び立てていけます。

パラグライダーのテイクオフ、離陸直後


 どのようなエキスパートであれ、毎回毎回すべてのテイクオフを完全な動作とタイミングで実現できるわけではありません。したがって、どの人にも共通して離陸直後のパラグライダーは完全なバランスを得るまでは一様に不安定なのだといえると思います。パラグライダーのアクシデントの大半がこの離陸直後であることも、もはや常識と言って良いでしょう。
 離陸直後のパラグライダーの操作には細心の注意が必要です。パラグライダーの操作には揺れを正確に感知しなければ出来ない操作が多くあります。テイクオフ直後という最も繊細な操作が必要とされる時間的な流れの間、必要のない動きをして、必要のない揺れを作ることは絶対に避けなければまりません。もし、テイクオフ直後にパラグライダーが大きく揺れているとして、それはテイクオフ時の不完全な状態に起因するのか、あるいはテイクオフ直後に風が不安定なことに起因するのか、それによってブレークコードの操作が様々に分岐します。ですから、揺れるのはせめてこの二つの要因に絞るべきです。
 実はここまでの記述はたった一言を伝えたいがための前置きです。パラグライダーは揺れます。操作はその要因と伝わる感覚で決まってきます。待って止める?すぐに引く?すぐに引いてからゆっくり戻す。いろいろです。あくまでパラグライダーから伝わる情報に対して正確に反応していくことに終始すべき時間帯です。余計な操作は一切すべきではありません。伝えたい一言は「座ってはいけない」ただそれだけです。スタンディングポジションからハーネスに完全に座ったシッティングポジションへ移行できるには、ブレークコードの操作を必要としない状態、パラグライダーが揺れることなく安定した飛行に移ってから行います。このことは皆さんも知識としてすでにご存じだと思います。その本当の理由とは、こんなところにあるのではないでしょうか。つまり、離陸直後の揺れはブレーク操作が非常に難しいというところに。

パラグライダーのテイクオフ、最後の選択肢


 たとえどんなに完全なテイクオフを目指したとしても間違いは起こります。そこで、失敗したら自分がどうなるか、先の未来図を少し想像し、その逃げ道を確保しておくべきです。テイクオフの状態はいつでも違います。風の状態、斜度、広さ、離陸直後の斜面の状態など。逃げ道を確保するのは、裏を返せばテイクオフの自分の状況をシミュレートすることです。これによって、最終的な飛行決心の範囲が決まって自分自身に枷をかけることができるようになります。困難が予想される場合は早めに取りやめなければならないでしょう。場合によっては余計な修正も避けたいところですから、頭上安定まで待たずに取りやめた方が良い場合もあります。自己制御という難しいテーマを比較的容易に理性の制御下におけるようになるには、このようなネガティブシンキングも時に有効です。テイクオフはギャンブルではありえません。あくまでも冷静な判断の下で空中へ出て行くべきです。
 想像してみて下さい。だれでも狭いテイクオフ、強すぎたり、弱すぎる風はいやなものです。ですが不思議とこのような状況ではパラグライダーが深刻なアクシデントを起こさないものです。おそらく常よりも集中力が高く保たれていること、事前のシミュレーションがなされ停止するとか、取りやめるとか、そのような判断が速く下せる状態にあること。このような要因が難しい条件でのテイクオフにおいてのアクシデント発生確率を小さくしているのだと思います。何でもない条件の時ほどアクシデントが起こる。これはパラグライダーにおいては鉄則と言うべき真実です。
 このテイクオフ。この風速。この風向。それなら、だいたいこうやって出る。ここで上がってくる感覚ないなら取りやめ。頭上で確認する。走る。その間になにかあればこの藪に引っかかる。そのときはこちらの方が痛くなさそう。いや、こちらは漆の木があるからこっちへひっかかろう。当然頭の中にはうまくいくイメージもシミュレーションします。大切なことは事前に考えて準備をすることで、精神状態をあくまでも平静な状態に保ち、万が一の時も慌てないようにすることです。
 パラグライダーが僕たちの世界を広げてくれる道具だとしても、それは確実に空へと飛び立ててからの世界のハズです。ここまで6回の連載をかけてようやく空中へと飛び立ちました。拡がった世界。それは人に優しいばかりではありません。そしてパラグライダーのフライヤーは完全に着陸する義務を持っているハズです。次回のパラグライダーQ&Aはいよいよ空中編に入ります。それでは、また次回。今回もご一読ありがとうございました。