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 8回目になりました。ここまで、パラグライダーのライズアップからテイクオフを取り上げてきました。そして準備の重要性であったり、練習によって感覚を磨くことの大切さについて記述してきました。
飛び立つまでに随分時間がかかりましたが、この傾向はこれからもかわらないと思います。気長におつきあい下さい。
 今日からは空中でのお話に入ります。パラグライダーは空中を飛行する乗り物?(道具)ですから、たくさんの話題がありますね。これからも、何気ないテーマを必要以上に深く掘り下げる姿勢を忘れずに続けていきます。その理由は、この連載記事の目的が、パラグライダーのフライト技術や理論を掘り下げることで、上達のためのヒントや気づきを見つけようとしているからです。繰り返すことになりますが、基本となるのはあくまでも教本です。この連載記事は、読んだ人がよりパラグライダーに深い興味をもってもらったり、上達のきっかけを作り出せるような内容を目指しています。今回からは空中を取り上げるのですが、前述の理由で見落としがちなことを細かく見つけて行きたいと思います。

パラグライダーの直線飛行はすべての基本


 「そんなことは、知っている」経験豊富なベテランパイロットは皆一様に同じ感想を持たれることと思います。承知はしているのですが、つまらないと思わずにしばらくおつきあい頂ければと思います。
 みなさんは、パラグライダーの飛行中にどんなことを考えて飛行しているのでしょうか?ソアリングが目的ならばサーマルの場所や風の強さなどいくつもの要素を複雑に組み合わせることでしょう。みなさんは、さまざまな選択肢の中から最善と思われる方法を導き出していることと思います。
 これは、経験豊かなパイロットだからこそできることです。パラグライダーで初めて飛行したフライヤーにできる技術ではありません。緊張どころでそれどころではない。それも一理あります。しかしながら心理面に言及するのはこの記事の本意ではありません。そこで考えるべき事柄とそれに関するフライト上の結果を関連させて考察したいと思います。
 パラグライダーの直線飛行で最も重要なことは、あくまでも目標とする飛行地点に向かって直線を維持しながら飛行することです。もちろん、空中は風が吹いていて、この影響を受けますから何もしないで目標とする方向に飛行できるわけではありません。まして、目標する方向に向かって飛べているのかどうかが判断できない技術レベルでは、直線飛行そのものさえ明確に想像することが出来ないでしょうから、やはりパラグライダーの直線飛行は難しい技術なのです。
 考えるべきことはまだあります。パラグライダーは時間経過とともに高度が変化します。上昇気流が存在する場合を除いては確実に高度を失いながらの飛行となります。そのために、最終的な目標地点である着陸場との関連を無視するわけにはいかなくなります。そのため、目標となる方向を切り替えるべきタイミングがあります。この高度の変化も直線飛行を難しいものにしてしまいます。
 整理が必要ですので、実際のパラグライダーの練習飛行に置き換えましょう。
まずは、目標地点への飛行です。パラグライダーは風の影響を受けて飛行方向が変わります。そこで、目標地点への飛行を確実に行うためには、次の感覚と操作が必要になります。まず自分(パラグライダー)が風によってどのぐらい影響を受けているか、その影響を確実に捉えること。次に目標へ向かうべき適切な方向へパラグライダーの向きを適応させていくことです。この操作量の調整、目標方向への適応を円滑に行うためには、何よりも適切な視線と方向認識が必要になります。ここが重要です。パラグライダーの直線飛行およびそれを行うための修正飛行(偏流飛行)は、風の流れを捉える感覚と自分の流され具合を感知する空間認識を必要とします。パラグライダーの初期の練習では、自己の動作の習熟訓練が中心であるために、自分の飛行経路が風による影響を確実に受けていることへの対応は難しいものです。なによりも空間における自分の位置の認識力が不足しています。そのために、テイクオフ直後からパラグライダーが明確な目的方向へ向かないまま飛行(風に流される、あるいはテイクオフした飛行方向のまま)を続ける人を多く見受けます。これでは、ソアリングを目指すことはもちろんできません。そればかりか、風速の影響が顕著になるとパラグライダーの飛行そのものすらおぼつかない状況になってしまいます。

パラグライダーの方向を定めるために必要な感覚


 パラグライダーの直線飛行には、風による影響(流され具合)を感知する感覚とそれに対応する方向修正を適切に行うための空間の認識が必要であることに触れました。
 パラグライダーのフライトは方向をコントロールすることに対して外的な要因を受け続けます。意識した訓練を行わない限り、私たちがこのような日常生活とはかけ離れた感覚を習得するのは難しいものです。日常での生活を想像して下さい。歩くにせよ、走るにせよ、車で移動するにせよ、目的地を見失わない限りはそこにたどり着くことは誰にでも出来ることです。これは目的に向かう歩行や走ると行った運動に対して自分の運動を妨げる外的な要因がほとんど存在しないからです。これが、海の上ならばどうでしょうか。方向は常に海流や波の影響を受け続けます。空を飛行するパラグライダーに置き換えれば、風の状態という外的条件がつねに私たちの方向への操作に対して影響を与えます。このような経験は日常生活ではほとんど経験できません。
 付け加えるならば、人にとっての目標方向への認識は意外に難しいものだと言うことです。実例を挙げてみます。運動部に所属した人ならば誰でもグラウンドに白線を引いた経験がおありでしょう。これが経験を積まないと意外に難しいことをご存じだと思います。白線に気をとられていると白線がどんどん曲がって、とてもサッカーや野球のグラウンドとしては使えないようないびつなものになってしまいます。上手に白線を引くためには、目標となるポイントに目標物を定めて(私の経験では人に立ってもらったり、サッカーのコーナーフラッグを使ったりしていました。)そこへ向かってまっすぐ歩くように意識します。このとき、白線はほとんど見ません。このやり方を会得するとまっすぐに白線を引くことが出来て、部活の先輩に怒られることもなくなります。このように直線をイメージすることは、なかなか難しいものです。パラグライダーの飛行ではこの困難さに加えて、風という外的な要因をつねに受け続けますから、難しさはグラウンドの白線引きよりも上なのです。目隠しをしてまっすぐ歩ける人がいないように、直線方向を目標とする対象なしに移動できる人はほとんどいないでしょう。これは人の空間認識が視覚情報に依存しているからだと思います。このポイントを意識することで、パラグライダーの直線飛行の精度を極めて高いものに変えていくことが出来ると思います。

パラグライダーの高度変化を感じ取る直線飛行を目指す。


 パラグライダーのソアリング(上昇気流を使用したフライト)が上手な人は高度の獲得が優れているだけなく、高度の損失を最小限度にコントロールできているものです。あるいは、移動による高度の損失と上昇気流によって獲得できる高度の足し算、引き算が上手なんだと言うことです。サーマルソアリングについて触れることは本記述の目的ではありませんのでここでは触れません。とりあげるのは、高度の損失の予想です。目標とすべきサーマルの場所への移動は直線飛行で行います。どの高度でスタートして、その高度で到達できるのか。この予想値が正確であるからこそ、一つのサーマルにかかわらず、次々とサーマル(上昇気流)を乗り継いで長い時間フライトすることが可能なのです。私たちが生活しているのはほとんどが平面です。常に高度が変化するような空間で生活をすることはほとんどありません。上昇と下降も、それが加速度を伴って急激なものでない限りは、身体に備わった感覚のみで認識することはほとんど不可能です。パラグライダーがいかに日常とは異なるものか。それは、方向への外的要因(風)と時間推移による高度の恒常的な変化(風、通常のパラグライダーの沈下速度)の二つが組み合わさっているからです。上級者を志すパラグライダーのフライヤーならば是非この非日常的な感覚を身につけたいものです。

パラグライダーの直線飛行を習得する効果的な方法


 パラグライダーの直線飛行を最初に取り上げたのは、この自分の状態が常に変化をし続けることを最初に理解して欲しかったからに他なりません。変化するものが方向と位置(高度と場所)、それらに風などの外的要因が組み合わさると、自分の次の位置が際限なく変化します。そして、パラグライダーの直線飛行は非日常的であるためにいままでの経験を基に行えない難しさがあることがおわかりいただけたのではないでしょうか。いたずらに飛行を続けていてもこの複合的な感覚を身につけることが難しいものです。そこで、オススメな練習方法は思い切って高高度飛行を捨てて、ショートフライト(講習会場でのフライト)を数回行うことです。
 グランボレでは斜面の中段からのフライトが非常に効果的です。その場合はターゲットの中央を意識してフライトをすることが重要です。これは方向の意識付けのために行います。この意識付けがなされていない段階では、たった数十メートルの距離でさえ目標への飛行を完全に行うことが出来ないことに気づくと思います。意識付けがなされてきた段階では、方向への修正を素早く判断するために、出来るだけ早く、そして小さく、方向を修正できるような意識をもってフライトを行います。そのフライトでも流され方とその修正に対して反射のように反応できるように意識をもって練習して下さい。また繰り返し練習を行うなかで、自分が地面のどこに着陸するかの予想を行います。その地点を越えるか越えないか。そのときに受けている風の状態や離陸の精度によって異なるにせよ、パラグライダーの高度がどの様に変化するのかを感覚的に身につけるためには非常に効果的な練習方法です。時間的な推移で高度が変わることを繰り返し経験することで、パラグライダーの高高度飛行の質も向上すると思います。また、パラグライダーの直線飛行に影響する外的な要因が優しい条件で行った方が効果的です。つまり、なるべく風が弱いときの方が効果的な練習が行えます。もちろん、慣れてきたら少しずつ難し条件で練習すると良いでしょう。グランボレのスクーリングでは高高度飛行のトレーニングが中心となっています。そこで、空き時間などに意識してこのショートフライトを行うようにすると、メキメキ上達すると思います。

パラグライダーの直線飛行を俯瞰できるようなイメージで


 繰り返し練習し、ある程度の目標への飛行経路が維持できるような技術レベルが確立してきたら、次の目標は自分の飛行経路を俯瞰できるようなイメージを持てるように訓練することをオススメします。
 パラグライダーのフライトにおける上級者のイメージは時に、時間を飛び越えて予想を立てたり、遙か遠い人の飛行状態から自分の飛行状態を確かめたりするもので、いままさに自分がしていることに集中しきっている心理の状態はきわめて稀です。さらに、これから変化するであろう気象条件や移動した先での地形による風の影響度を想定するなど、本当に頭が休みなく動き続けます。これらのトレーニングのために、自分がいま飛んでいる状態を上から眺めるとどのような状態なのか推測してみましょう。千変万化する条件を自分のフライトコンピューター(頭脳)に次々とインプットしていけるように自分のフライトを客観視できるような訓練を始めましょう。このトレーニングは次の方法を根拠にしています。私たち、インストラクターはフライトを説明するときにランディングの模型や三峰山の小さな模型などで説明をします。これはパラグライダーの飛行経路や高さの変化、やがてはランディングアプローチの手順などをわかりやすく伝えるために工夫しているのです。この方法と同じように自分の頭の中に三峰山のモデルを置いたり、小さなランディングを想定してそのイメージの中でパラグライダーを実際にランディングさせるイメージを持ったりします。すると、不思議に自分のフライトコンピューター(頭脳)に入力できなかったような情報が次々に入って行くようになります。これは意識の転換というべきもので経験が必要です。しかし非常に有効な方法です。直線飛行が苦手な人は是非試してもらいたいなと思います。
 今回はパラグライダーの直線飛行を取り上げて、人の日常感覚とのずれ、その観点から何が難しく、どのように練習すれば良いかを考えてきました。「直線飛行なんて」たしかに一理あります。パラグライダーは基本的にまっすぐ飛びます。しかし、そのように考えている人ならば、次のようなことを想像してみて欲しいと思います。きちんとした直線飛行を行えないまま旋回練習を始めれば、やはり旋回そのものもいい加減なものになります。高度の変化と到達地点を予測できない人は、飛行を繰り替えしたとしても、ランディングアプローチにおける最終進入高度の予測を正確には行えません。風の流れと自分の意図する進行方向への流れの差異を体感できない人は、サーマルセンタリングにおいて効果的な旋回の修正を行うことが出来ません。直線飛行になんらかの問題があれば、上手に曲がることも出来ません、ランディングに不安要素が常にあります、サーマルから外れて高度が獲得できません、そのような悩みを抱えることにつながるのではないでしょうか。パラグライダーの飛行様態における様々な悩みや疑問を解決する一つの方法が直線飛行にこだわってみることなのです。
 いわば今回は伏線のような内容で、結論として言いたかったことがパラグライダーの非日常的な感覚についてでした。次回は具体的な操作まで踏み込みながらパラグライダーの飛行を考えてみたいと思います。読みづらいテーマだとは思いますが、今回もご一読ありがとうございました。