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 目標にしていた10回を迎えました。もちろん、これでおしまい!ということではありません。たまにメールをもらったりしますが、本当に励みになります。読者が一人でもいらっしゃればテーマをひねり出して続けて行きます。もちろん、こんなことを取り上げて欲しい。そんな時は遠慮なさらずにどんどんおっしゃって下さい。必ず取り上げていきます。
 今回はそんな、読者の方からの質問に答える形で書き進めていきます。質問はこうでした。「パラグライダーのブレークコードってどうやって持つのが本当なんですか?」なるほど!これぞいいね!!ですね。パラグライダーの見落としがちな技術ポイントにフォーカスしてマニアックな考察を行うのが本企画ですから、願ったり叶ったりのテーマをいただけたものです。
 操作のすべてを司るパラグライダーの唯一のコントロールコード。日本語にするとブレーキを掛けるような印象を持ってしまいがちですが、これほど重要なコーントロールなのに、なぜか持ち方が曖昧としているのも事実です。曖昧と言うよりも人によって千差万別という表現が正しいかもしれません。今回は、このことについて触れていきますが、重要な前提を書いておきます。ブレークコードの持ち方はつり革を持つようにグリップを握る。これは正しい持ち方です。その根拠はもっとも視覚した際に持ち方を認識しやすいことが一つあります。デザインですね。見たとおりに直感的に持てるようにデザインされていると言うことはそのように持つことが前提にあるのです。二つ目の根拠はパラグライダーの認証試験におけるテストフライトはすべてこの持ち方に準拠して実施されているからです。さまざまな飛行状態試験、たとえばどのぐらいの引き具合で失速するとか、あるいは緊急降下手段としてBストールを行うときに不具合が生じないかとか、そのような試験を実施するときはきまった持ち方でフレークコードのストロークをはかります。つまり、まず教わる最も基本的でわかりやすい持ち方、パラグライダーのブレークコードをつり革のように持つ、このことは正しい持ち方ですから誤解しないで下さいね。

パラグライダーのブレークコードを調節して良いのか?


 早速ブレークコードの持ち方云々について書いていきたいのですが、基本知識として確認しておくことがいくつかあります。まずは、ブレークコードについていくつかの重要事項を確認するとしましょう。
 一つ目は調節についてです。ブレークコードにつながっているライン、ブレークラインを自分勝手に調節してはいけません。よく見られる間違いは、ブレークラインを短くする調節です。確かに短くすることでハンドリング(ブレークコードの反応)が上がったかのように感じますが、この調節は重大な危険要素をはらんでいます。パラグライダーが滑空しているときに、ブレークコードをもっとも引いていない状態、つまりプーリー(滑車)に接触している状態にすると、かならずブレークラインが空気抵抗で後ろにたわみ、余っています。ブレークラインを短く調節する人はこのあまりを不要な余りと捉えて、操作性を阻害する要因と認識しているようなのですが、重大な誤りです。このブレークラインの余りはパラグライダーの安定飛行になくてはならない要素です。重要なポイントなので詳細に現象を書きますが、一つ目はこの余りがなくなると、パラグライダーが本来持っている前後軸の動き(ピッチング)が正しく起こらずに、失速する可能性があります。この阻害要因はパラグライダーを失速に入りやすくするだけではなく、同時に失速から回復しにくくする現象を引き起こします。これは通常の飛行時には起こりにくいのですが、ビッグイヤー(両翼端折り)、Bストールなどの効果手段を行ったときにその失速しやすく、失速から回復しにくい特性が顕現します。つまり、パラグライダーの迎角が大きくなるときに顕著になります。ですから絶対に短く調節することは避けなければなりません。二つ目は、このブレークコードの余りが果たしている、あまり知られていない一つの役割についてです。それは、この余りが飛行機の翼にたとえると尾翼の役割を果たしていることなのです。ご存じのように飛行機には主翼、尾翼、垂直尾翼とそれぞれ役割の違う翼が備わっています。鳥の翼もその翼によって揚力を持たせる箇所、推進力を生む箇所と役割があるそうです。そして空中をダイナミックに滑空する鳥はきちんと尾羽が備わっています。パラグライダーは特殊な翼で、前後安定を振り子という重力効果で保っていますが、尾翼に相当する部分がないわけではないのです。それが、ブレークラインが余っていることによって起こるピッチ安定(前後に安定する)効果なのです。この余りを切ってしまって飛行すると、本来パラグライダーの翼が自律的に発揮できる安定した前後バランスを失ってしまいます。現象としては不思議なことにより前方向に移動しようとします。これは、おそらく湾曲した翼の上面を空気が流れるために、空気の流速が上がるためではないかと思います。これは、経験則なので間違っているかもしれませんが、ピッチングのトレーニングを大きく行うときに恐怖心からブレークコードをわずかに引いてしまうと、余計にパラグライダーが前方へピッチングし、なおかつ潰れやすくなる、そんな経験をしたことがあります。この現象(パラグライダーの尾翼効果)は、速度の速いグライダー(滑空性能が高い)の方が現れ方が明確です。
 このようにパラグライダーのブレークコードの余りはとても大切な役割を果たしていますので、操作性が悪いからと片付けてしまって良いものではないのです。パラグライダーのブレークコード調節はインストラクターにお任せしましょう!ほとんどの場合は調節不要ですが、どうしても必要な場合は専門家に任せましょう。

パラグライダーのブレークコード持ち方あれこれ


 みなさんはどの様にパラグライダーのブレークコードを持っていますか?最初に教わったとおりに基本に忠実に持っている、僕はこんな持ち方をしている、あるいはあんな持ち方している、いくつかの持ち方を実際に検証してみましょう。良いところがあったり悪いところがあったりです。これはブレークコードの持ち方に限ったことではありませんが、どんな技術にも良いところもあれば反対に欠点もあります。そのことを知った上でブレークコードの持ち方を考察する方が正しいと思います。
 基本的な持ち方。グリップをそのままに持つこと。この方法は直感的でわかりやすく、間違いのない、優れた持ち方です。必要以上にブレークコードが短くならないので、そのままビッグイヤーやBストールと行った効果手段を実施することが出来ます。やはり基本技術は大切ですね。ですからインストラクターも最初は必ずこの方法を指導します。ですが、この持ち方で実際に飛んでいる人は意外に少ないですね。もちろん、全員に聞いたわけではありませんが、僕が聞いた限りでは少なかったです。これは、この持ち方の特質である、ブレークコード必要以上に短く持ちすぎないことが反対にデメリットに転じているからなのかもしれません。それとあわせて次の持ち方を考えてみましょう。
 ブレークコードに手を通して少し短く持つ方法。僕が話を伺った限りではこの方法で持っている人が非常に多くいました。よく「ワンラップ」すると言います。グリップに手を通して持つことでグリップが手の甲に引っかかり握る力が必要でなく、楽にブレーク操作が行えること。また、ブレークコードが短くなることでブレーク操作の初動から反応までの時間差を小さなものにすることが出来る。などがプラスに働いているのだと思います。効果的な持ち方なのですがデメリットもあります。この持ち方はブレークコードのグリップに手を通していますので、いざというときにブレークコードから手が離れなくなる可能性があります。もっとも考えなければならない状況は緊急用のパラシュートを使用する決断をしたときす。このような場合に備えて、素早くグリップから手を離せる練習を積んでおく必要があります。なかには、飛んでいるときに一度もパラシュートのグリップ位置を確認したことがない人もいるかもしれません。久しぶりのフライト時にはかならずパラシュートのグリップを確認する癖を習慣化したいものです。その際、このワンラップという持ち方をしている人はグリップから素早く手を抜くことを意識しましょう。それからブレークコードを短く持っているということは、沈下速度が増すときは注意が必要です。とくにこのグリップのままビッグイヤーやBストールを行うことは危険ですのでオススメしません。ブレークコードが余っていない状態は大変に危険だと言うことを忘れないで下さい。必ず通常のグリップに戻し、ブレークコードが一番長い状態で効果手段を実施する必要があることをお忘れないように。
 最後に紹介するのは、可能な限りブレークコードを短く持つ方法です。工夫した方法がいくつかあります。ブレークコードグリップの最上部に別のグリップポイントが備わっているブレークコードグリップなどもオプション装備として販売されています。グランドハンドリングが大好きで得意なフライヤーの大部分はブレークコードを直接持つことで(グリップごと握って)操作をしています。アクロバットを好むパイロットの大半はブレークコードを通常のグリップで握った後にもう一度ひねることでブレークコードを短い状態で持つ方法を実践しています。これらに共通するのはブレークコードの余りは決してなくさないが、可能な限り短いストロークでブレークコードを操作し、さらに手を高い位置に置くことにあります。この方法は別のメリットもあります。グリップに手を通していないので、いざというときはパラシュートを使用したりラインを切断するためにブレークコードから手が離すことができます。優れた持ち方のようですが、非常に短くブレークコードを持つことは、引く操作以外にグライダーの状態を感知して手を上げる(ブレークコードを戻す)という操作が頻繁に必要です。そのため数ある持ち方の中でも繊細な感覚と飛行状態を正確に捉える感覚の双方を必要とします。操作性と引き替えに難易度が高い持ち方で、ブレークコードの正確性を欠いた操作を行うと簡単にパラグライダーが失速する危険性をはらんでいます。

パラグライダーのブレークコードの持ち方に絶対はない?


 代表的な持ち方を順番に紹介してみました。気づいた方もいると思うのですが、順番にブレークコードの長さが短くなっています。それと反比例して手を置く高さが高くなっています。操作性が高まっていくと同時に腕の長さが効率よく使用できるようになりますが、一方でブレークコードのプレッシャーの変化やパラグライダーの飛行状態に合わせた厳密な操作が要求されるようになり、操作の許容範囲が狭くなります。自分のブレークコードに対する感覚は第三者が客観的に評価することは非常に困難ですから、地道に練習して積み重ねていくしかありません。ミリ単位という一流のテストパイロットレベルとまではいいませんが、数センチの引き加減の違いには気づけるようになっておきたいですね。
 そこで、実践しておきたいのですが、自分のブレークコードが何番目から引き始められるかご存じの方はいるでしょうか?
 なんのことだかさっぱり分からない人は想像して下さい。まず、ブレークコードはブレークラインにつながっています。このブレークラインはほとんどのグライダーで次の構造になっています。すなわち、一番太いボトムライン、中間のミドルライン、最後のアッパーライン。このパラグライダーの翼に直接つながっているアッパーライン数本(4本から5本)のうち、どのラインが一番最初に引けますか?
 安定した空域の中でしたら、ゆっくりとブレークコードを引き始め、次のことを観察してみましょう。
1.はじめに、どのブレークラインが引かれ始めるのか。
2.どこまで引くとすべてのアッパーラインが引かれた状態となってブレークコードの余りがとれた状態になっているのか。
3.さらに引いてパラグライダーの翼後縁が曲がり始めてブレークコードにどのようなプレッシャーがかかるのか。
4.そこからもう少しはっきりとした重さを感じ、自分の操作がパラグライダーに伝わる感覚があるブレークコードの位置はどこか?
この4カ所はそれぞれに意味も名称もあります。
1.コンタクトポイント
2.トータルコンタクトポイント
3.ニュートラルポジション(説明が難しいがすこし、テンションがかかりブレークが戻ろうとする)
4.アクティブ操作ポジション(気流の変化などに即応するための操作ポジション)
となっています。さらに、
0.フルグライド(0%ポジション)ブレークコードが余り最高速度で飛行している状態
を入れれば5つのポジションが存在しています。これをブレークのプレッシャー(重さと反発の感覚といった方が適切でしょう)で捉えて操作を行います。
 これらを安定した気流の中で実際に試すことで、自分のブレークコードに対する感覚を鋭く、そして正しく理解しましょう。

パラグライダーのブレーク操作の実際を考えてみよう


 これはだれでも、すぐに実践できると思います。まずいすに座って手を上げます。これはパラグライダーのハーネスに座っていることを想定しています。このとき腕を上げてブレークコードを引く操作のシミュレーションを行ってみます。腕の動きに注目して下さい。ある高さからはブレークコードを引く動作ではなく押す操作に変わっていくと思いませんか。特に肩関節が硬い人(失礼!)は肘を後ろに引くような動きで肩胛骨を後方へ反らすような動き(弓を射る動作に似ています。)が苦手です。このような人はわりと高い位置でブレークコードを押すような操作に変わってしまいがちです。同じように手を下げる動きであっても高い位置から手を下ろすときは引くような動作です。反対に人間の手は肘より下に引けませんから、肩と肘をうまく使って引く動きが作れないとブレークコードを押し下げるような操作になってしまいがちです。このような操作は手首の関節や指先の関節など、ブレークコードのプレッシャー、重さや反発力などを敏感に察知する重要な部位を作動させなくしてしまいがちです。どうしても力みが強く出てしまい、柔らかくなめらかなブレーク操作に掛けてしまいがちです。うまく関節を動かしてなるべく引く操作でブレークコードをコントロールしましょう。手首と指は柔らかく、強く握らずに。

パラグライダーのブレークコードの持ち方を工夫する必要性とは?


 パラグライダーのブレークコードは様々な持ち方をしている人がいて、そしてよくよく考えてみると、いろいろな良い点や悪い点などがありました。そしてその人の技量や個性にうまく適応するかのように、習慣になっているので、これが良いとか悪いという話でもありません。
 あえて結論づけるとすれば、まずは基本に忠実に。そして繊細なコントロールを求めるためにグリップの握り方を工夫する。それぞれの持ち方のデメリット、メリットを知ること。その上で何よりもたくさんブレークコードに触ることが大切です。グランドハンドリングなどは、上達することでさらに繊細にブレークコードを操り、さらに、上達を重ねていけます。このような感覚は短時間でブレークコードの操作を習得するには効率の良い方法です。あれこれ考えることが終わったら、講習会場に出ていろいろと試してみたら良いと思います。ブレークコードの持ち方あれこれを。その中で、自分の感覚に適応するものを選んでいけば良いでしょう。
 ただし、目的と手段を取り違えないようにしましょう。あくまでも操作を向上させることが目的です。ブレークコードの持ち方はその手段にすぎません。手段が目的化してしまうと、練習が変な方向に行ってしまいます。ただし、試さなければ分からないことがあるのも事実。試して分かることがあれば、試してみれば良いし、試して分からなければこのことに固執する必要はありません。
 今回は、ブレークコードの持ち方という、ちょっと曖昧なことを細かくとりあげてみました。曖昧なわりに細かな操作が必要。それがブレークコードです。引くし戻す。タイミングを間違えると役に立たないばかりか致命的なミスコントロールにもつながる。重さも必要な量も変化します。ここで30センチ引いて15センチ戻すというような解説がなかな出来ないですからね。
 次回は旋回についてを取り上げます。あくまでも基本的な旋回についてです。ひとまずの目標をランディングアプローチに置いていますので、前回までに取り上げた直線飛行、旋回とつづけてランディングアプローチですね。特に旋回中はブレークコードの操作感に触れないわけにはいかないので、この機会にブレークコードに触れることが出来たのは良い機会だったと思います。直線飛行にあれほどこだわったわけも勘の良い人なら気づき始めているのではないでしょうか。それでは、今回もご一読ありがとうございました。