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 久しぶりになってしまいましたが、好評につき?再開したいと思います。ブログを更新していると、人気の記事として「パラグライダーQ&A」が上がってくるときがあります。読んでいただけて本当に嬉しいです。そんなマニアックかつディープなファンのためにも不定期ながらも続けていきたいと思っていますので応援よろしくお願いします。
 今回は11回記念および再開記念ということでお届けします。先日、フィールドジョイの長島さんを講師としてソアリングセミナーが開催されました。参加者の熱心な態度、意欲の高さ、そして受講後の晴れやかな表情がとても印象的でした。わたしも深く感銘を受けた次第です。そのセミナーでは逆転層についてかなり詳細な講習があり、受講生のみなさんもお話を聞き逃すまいとしておられました。
 パラグライダーは空を飛行するスポーツであり、そしてその最大の魅力はソアリング(上昇気流をつかまえて長い時間滑空し続けること)にあると思います。いうまでもなく、そのエネルギーは自然に由来するものです。上昇気流にはさまざまな種類がありますが、ここでは熱エネルギーによって生まれる暖められた空気、すなわちサーマル(熱上昇気流)についてを取り上げようと思います。
 サーマルについて、かつてパラグライダーの世界チャンピオンになったブルース・ゴールドスミス氏はこのように述べています。
 「この強力だが、目に見えない自然の力との遊び方を知っているのは、私たちと美しいソアリングバードだけだ」ー引用サーマル・フライング、序文より
 ソアリング、サーマルについて触れるといってもあまりに抽象的になりすぎますし、先述したサーマルフライングより優れた教科書にすでに述べられているとおりですが、そこはみなさんの「パラグライダーQ&A」です。逆転層(接地逆転、放射性逆転層)についてアカデミックかつサイエンス・スピリット満載?でお届けしましょう。

逆転層をみてみよう


 逆転層はその出来方、成立の仕方によって数種類に分けられます。ひとつが接地逆転層・放射性逆転層です。今の季節、快晴に近い晴れ、風が弱く暖かな日、このようなときは夜間に上空の冷たい空気が地上付近に降りてきて、地表付近の空気が冷たくなってしまうことがあります。このような大気の状態を接地逆転層と呼びます。もうひとつ、パラグライダーのフライヤーが知っておかなければならないのは沈降性逆転層です。これは高気圧の下降気流が断熱圧縮を引き起こして発生します。今回とりあげるのは、接地逆転層です。
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 テイクオフからみた風景ですが、よく観察するとしろいもやもやが地表付近に漂っているように見えます。これが接地逆転層です。パラグライダーでサーマルソアリングをするためにはあたたまった空気が上昇する必要があります。この逆転層では地表付近が冷たく、そして標高が高くなるにつれて気温が上昇しますから、暖かい空気(周囲よりも軽くなった空気)があがっていくためにはより温度が上昇する必要があるのです。


実際に飛行中の映像を見ると、赤城山の方角が明確ですが、くっきりと白くもやがある層とくっきりと透明な層の二つがわかると思います。

それでは実際に温度を測ってみよう!


 さて、それでは実証しましょう。用意するのは温度計。これだけです。これをテイクオフとランディングの日陰になる場所に設置します。フライヤーの皆さんに協力してもらい、テイクオフするときに必ずランディングに無線を入れてもらいます。このときのテイクオフとランディングの気温を測定します。
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 こちらが08:00のランディング(ショップ前の日よけ)の気温です。10.5度でした。今朝はだいぶ冷え込んで、車のフロントガラスに霜が降りるほどでしたが、この時間になるとどんどん気温は上昇するようです。少し時刻がずれますが、このままテイクオフへと上がってみます。
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時間のずれは約30分ほどでしょうか、こちらが08:30ごろです。明らかにテイクオフの方が暖かく感じます。テイクオフの気温は13.3度でした。ここで気温減率を考えてみましょう。気温は100メートルごとに0.65度温度が下がります。ランディングからテイクオフまでは約400メートルありますから、2.6度温度が下がっているのが通常です。つまり本来ならば7.9度がテイクオフの気温であるはずです。ところが実際に測定してみると13.3度、通常の気温減率に比較して5.4度も気温が高いことがわかります。
 気温測定後のフライトが先ほどの映像です。パラグライダーはほとんど揺れることもなく、静かにフライトその後ランディングしました。もちろん、獲得高度はありません。 

気温の推移を見てみよう


 すこし、時間がたって10:30ごろです。
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ランディングの気温はわずか2時間で5度ほど上昇し、15.3度に達しました。同時刻のテイクオフの気温はどうなったでしょうか?
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 テイクオフの気温は15.9度。ほとんど温度差がない状態まで変化してきています。気温は地表に接している箇所から徐々に上昇を始めます。日射エネルギーに関してはテイクオフもランディングもほとんど差がなく、同じように暖まっていくことがわかります。この時刻から一般のパイロットの方のフライトが始まりました。パラグライダーはわずかなリフトの兆候をみせ、すこしゆれるものの、高度を獲得することはなく、ほどなくランディングしました。



気温の上昇がもたらすものは?


 時間はさらに経過して、12:00です。本日は10月31日ですから太陽の南中高度はだいぶ低いですね。それでも、太陽が高くなるにつれ、熱エネルギーの伝わり方が変化してきます。太陽が真上から照らすにつれて、地表は斜面よりも熱効率が向上するようです。
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 気温は18.8度に達しました。計測を開始してから約9度気温が上昇したことになります。同時刻のテイクオフはどうでしょうか?
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 気温は17.2度です。ここではじめてランディングの気温がテイクオフの気温を上回ったことになります。このような気温の状態になれば、地形や風向などによって、より効率よく熱エネルギーが伝わり暖まる地面がでてきます。そこに隣接する空気は、周囲の空気にくらべて早く暖まることになり温度差を生じさせます。サーマル(熱上昇気流)のはじまりです。
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 この時刻を過ぎてテイクオフしたパラグライダーはサーマルをとらえて上昇を始めます。サーマルソアリングの始まりです。
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データからわかること


 今回使用したのは温度計二つというごくごく当たり前すぎる道具でした。ただし実際に計測してみると、接地逆転層がどれほどの現象なのかよくわかります。ちなみに本日のサーマルトップはおよそ海抜1300mでした。なぜここでサーマルが止まってしまったのか?それにはちゃんと理由があります。写真を見てはっきりとわかるように雲が全く出来ない理由もちゃんとあります。今回は接地逆転層をとりあげるのと、データの焦点がずれるのでそこには触れませんが、上昇気流はなかなかどうして、不思議なものですね。
 今回は時間と気温の推移をふたつの温度計で測定しました。測定したからこそはっきりとわかることがあります。それは気温差です。サーマルソアリングが始まった時刻のテイクオフとランディングの気温差は1.6度でした。2度にもみたない温度差ですが、このような条件になればサーマル(熱上昇気流)は十分にあがる可能性があることがわかりました。そして反証データとしては、わずかでもテイクオフの気温が上回っているときはサーマルは発生するもの、パラグライダーが上昇するには至らないということです。当たり前のことかもしれませんが、知っているつもりで、それを深く掘り下げない人がほとんどです。
 みなさんも、ちょっと振り返ってみてほしいのですが、ご自身のバリオメーターに温度計がついていませんか?僕が調べたところ、ほとんどのバリオメーターに温度計がついていました。なるほど。必要性がよくわかりますね。
 どこかで聞いたようなこと。あるいは知っているつもりのこと。そんなことが以外にわからないままなのがパラグライダーかもしれません。一度、頭をすっきりとして、なんにも知らないつもりでパラグライダーのことを考えてみるのもよいものかもしれませんよ。それではまた次回!