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 さて唐突ですが、みなさんは飛行することができますか?
もちろん、初めての高高度飛行を終えた講習生からベテランパイロットまで、パラグライダーのフライヤーであれば、YES! みなさん飛べるはずですよね。
 しかし、本当にそうなんでしょうか?最近グランボレでは、ヒューマンエラーについての講習を実施しています。こちらはパイロットコースに在籍している講習生の方を対象として実施しています。理由は明確です。パラグライダーのパイロットとして本当に知らなければならないことは、従来の講習、技術や知識に関する講習だけでは得られないことがわかってきました。ボクは事故を減らしたい。できれば無くしたい。その気持ちを込めてこの講習を行っています。
 このヒューマンエラーですが、ヒューマンエラーブックについて通読したことがない方はぜひ一読をお勧めします。事故がおこることはがんばって防げるような精神的、肉体的な努力や負荷で達成できる物ではないことが良く理解できます。その教科書の最後に次のような文章が書かれています。引用します。
 「本来、空を飛ぶようにはつくられていない人間が、知恵と努力によって大空を舞うことができるようになりました。しかし、それは人が作った道具によって飛べるのであって自らの体が飛べるようになったわけではありません。人間の知力が人の能力を上回る性能を持つ道具を作り出すたびに、そして道具の性能と人のそれとの差が大きくなればなるほどとても便利な道具と評価され、使う人に大きな満足感を与えてきました。一方で、人の持つ能力と、道具の性能差が大きくなればなるほど、それを操作する者に様々なストレスを与えてきたことも事実です。中略
 パラグライダーとヒューマンエラーという問題は、人の体に飛行機能が備わることがない限り、繰り返して論じられるべきものと思います。」


 私たちフライヤーはパラグライダーという道具があるから飛べるのであって、身体の運動能力にせよ、空気や温度の感覚にせよ、視力にせよ、その本来備わった能力では、絶対に空を飛行することはできない動物であることを知らなければなりません。つまり身につけた技能は、飛行する能力ではなく、飛行するための道具を操作、使用する技能に過ぎないのです。そこで、今回取り上げるのはテイクオフを取りやめる技術についてです。最近のベーシックコースの課程ではかならず練習するのですが、具体的にどのような技術なのでしょうか?
 

パラグライダーのテイクオフで必要なこと


 テイクオフという地形は、そこに人間の都合が介在している以上はかならず離陸しやすいように修正されているケースがほとんどです。つまり、パラグライダーの滑空費よりもおおきな斜度になるように作られています。このことは必然として、離陸はしやすいが止まりにくい。いざテイクオフを取りやめようと思ってもなかなか止まりにくい。このことをあらかじめ知識としては知っておかなければなりません。
 そこに、最近のグライダーの高性能化です。パラグライダーの性能の向上は良く飛ぶということ以外に、ユーザーが優しく扱えるように、ミスコントロールを許容するように作られてきています。このことは一見すると良さそうですが、何においても完璧な技術など存在しません。失速しにくい翼は、テイクオフ時に取りやめようと思っても、飛ぼう飛ぼうとしてなかなか思うように止まれないものです。
 そこに人間独特のエラーが付け足される可能性は常にあります。パラグライダーのライントラブルです。ここでは空力的な解説まではしませんが、次の事実をみなさんは知っておく必要があります。
それは、「一日のフライトを通じて、誰もラインが絡んでいない、そんな日はほとんどない」という事実です。もちろん、飛ぶ人が少ない平日などに、何事もなく終わることもありますが、土曜日、日曜日、そんな日はたいていラインが絡まった状態でテイクオフするグライダーが必ずいます。身に覚えがある人はまだ良いのです。このような人は次に備えようとするでしょう。そうでない人は要注意です。
 プレフライトチェック、スタートチェック、このような言葉とテイクオフゾーンで交わされるルーティンは意味のないものではなく、事故を未然に防ぐために考え出された方法です。
 それでも、ラインチェックに不備があったり、あるいはその他の事由で止まらないとならない場合はどのようにすれば良いのでしょうか?

 このデモでは、ラインは完全にクラバット(パラグライダーのラインがキャノピーをくぐっている)していますね。演技者はまずライズアップ時に左右のライザーから伝わるテンションで何らかの異常を察知します。グライダーが大きく傾こうとする挙動をかなり早い段階でつかんでいます。次に頭上に安定させようと試みます。パラグライダーのテイクオフで最も重要なのがこの頭上に安定すると言うことです。しかし、頭上に動いていくグライダーはもはや安定することはなく、目視でもパラグライダーのクラバットが明確に見て取れます。この段階でテイクオフを取りやめます。助走としては減速を開始、そして一方のブレークコードでパラグライダーを斜面に向かわせるように操作します。斜面に向かうようにパラグライダーを操作することで、パラグライダーの滑空費と斜度の関係を断ちます。つまりどうあってもパラグライダーが飛び立つことができない方向へパラグライダーを向けて停止させるのです。

確実に停止できる技術とは


 デモ演技はあまり緊迫感がなくて伝わりにくいのですが、このような状況でも飛び出してくるパラグライダーはあります。これは事実なのです。おそらく、ただのパラグライダーのライズアップ時における傾きぐらいに考えて、無理矢理修正し、頭上安定もさせずに闇雲に走れば、この状態でもパラグライダーは飛びます。しかしその後は、旋回しようとするパラグライダーに四苦八苦しながら、場合によってはツリーランすることが安全のために優先されるでしょう。つづいて次の演技もご覧ください。

 パラグライダーのDラインが絡まった状態でライズアップを始めています。演技者は先ほどよりは少ないが、左右のライザーから伝わるテンションに異常を感じています。ステップの方向によって傾きを修正しようとしますが、この時点でパラグライダーの状態の異常を疑い始めます。そして頭上安定をさせることが不可能であると判断し、すぐに停止動作に入ります。ここでも、頭上安定をさせられないパラグライダーでテイクオフはしないということを貫きます。これらの演技を通じて共通しているのは、
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通常の状態(パラグライダーがということ)であれば問題なく上がってくるはず。
つまりパラグライダーの挙動に疑いを持つ。
い修里燭瓩棒簑个防要以上に加速をしない。
テ上安定で確実にパラグライダーを目視する。
Δ垢阿気洌貶のブレークコードで停止動作を実践する。

完全なテイクオフは安全のため


 つづいて次の演技をご覧ください。

 こちらは、パラグライダーに何の異常もありません。そのことは映像を見て頂ければわかると思います。ではなぜ、停止動作に移行しているのでしょうか。ここまで読み進めて頂いたのであれば、その理由に思い当たるかもしれません。
「頭上安定が不十分である」これがテイクオフをとりやめた理由です。
演技者は異常を感じることなく、ライズアップを完了しようとしています。しかし、頭上安定に移行しようとするとき、予想をしていたポジションにグライダーが安定することなく、すこし下がってしまいました。そのため、頭上安定が不十分、必要なパラグライダーの目視確認もできませんでした。つまり飛行決心をすることなく、停止の判断をしたのです。このまま加速を続ければパラグライダーは大きなピッチングをともなってテイクオフすることが予想されます。テイクオフ直後は、もっとも危険な高さです。それを避けるために、中止を選択したというわけです。テイクオフはあらゆる意味で可能性にかけてはいけません。頭上安定で飛行への確信をもつこと。これだけです。
 今回はテイクオフで停止することを取り上げました。このことについて、上手に止まることができました。という評価をあまり聞きません。それは技術的な課題が、上手にテイクオフをすることを中心に講習されてきたためです。しかし技術を身につける真意はやはりその本当の意味を見失ってはならないと思います。上手に出るためのテイクオフの技術が安全であるために必要であるなら、一方で確実に停止できる技術を身につけておかなければそれは技術としては未完成です。
 みなさんも、ちょっとコンディションが渋いときなどに広い講習ゲレンデで練習してみることをおすすめします。当然ですが、人間にこのような技術がはじめから備わっていることはありません。練習でできないことは、本当に必要な時にその技術が発揮されることはありません。ちょっと堅い話になってしまいましたが、今回もご一読ありがとうございました。